今回は前回に引き続き、ミラノ滞在中に訪れたスイスの視察レポートをお届けします。
モンテ・カラッソから向かったのは、スイスの建築家ピーター・メルクリが設計した「彫刻の家」。
彫刻家ハンス・ヨゼフソンの作品を展示するために設計された美術館です。
興味深いのは、一般的な美術館のように入口でチケットを購入して入館するのではなく、通常は施錠されているため、少し離れた場所にあるレストランで鍵を借りてから向かうという点です。
川の流れやのどかな街並みを眺めながら目的地へ向かう、そんな道のりもこの場所ならではの体験でした。

歩き進めていくと、遠くにコンクリートの塊のような建物が見えてきます。ミュージアムの案内板がなければ、倉庫か何かと勘違いして通り過ぎてしまいそうな佇まいです。
長い年月を経たことが伝わる、荒々しいコンクリートの表情。その無骨な建築と、周囲に広がる大自然との対比に圧倒されます。
建物の正面に回ると、これまた倉庫の入口のようなドアが。ここが美術館?と緊張しながら入口の鍵を開けると、奥までまっすぐに続く通路が目に飛び込んできます。
壁には窓がひとつもなく、照明もありません。トップライトから差し込む自然光だけが彫刻を照らす、これまでに見たことのない展示空間でした。
建物は3つの部屋で構成されています。天井の高さに違いがあるため、空間ごとに光の入り方や明るさが変わり、同じコンクリートの仕上げでありながら、それぞれ異なる表情を見せていました。正直なところ、個人的には建物そのものを「かっこいい」と感じたわけではありませんが、これまでに見たことのない空間構成や展示手法が印象に残る建築でした。
美術館を後にして、今回の旅で最も感激した場所、ホテル「7132」へと向かいました。
建物の外観には、地元の採石場で切り出された薄い石板が水平に何層も重ねられており、まるで地層を目の前にしているかのような迫力がありました。
このホテルの大きな特徴のひとつが、建築家ピーター・ズントーが設計したスパ施設「テルメ・ヴァルス」です。
山の斜面に建物を埋め込むように設計されており、外から見ると自然の中に溶け込んでいて、スパがあることさえ一見わからないほどです。
ホテルに到着して早々、さっそくスパへ向かいました。
残念ながら館内は撮影禁止だったのですが、内部はまるで巨大な迷路のよう。中央に大きな温泉があり、その周囲には広さや湯温の異なる小さな浴室やサウナが配置されていました。
薄暗い空間に水音が響き渡り、まるで洞窟の中にいるような不思議な感覚に包まれます。
屋外にも温泉があり、雄大な自然を感じながらお湯に身を委ねる時間は、日々の疲れを忘れさせてくれる、とても贅沢なひとときでした。

このホテルにはもうひとつ、建築好きにはたまらない特徴があります。安藤忠雄、隈研吾、トム・メイン、そしてズントー自身が設計した客室を備える「建築家の家」です。
今回私が滞在したのは、トム・メインが設計した客室でした。
木目と黒を基調としたインテリア。


奥に見える半透明の卵型のスペースが、シャワーブースと洗面スペースになっています。
斬新なデザインで、正直なところ使い勝手が良いとは言い難いのですが、普段のホテルではなかなか味わえない非日常感があり、とても面白い空間でした。
【写真】
ほかの建築家が手がけた客室も見せていただいたので、ご紹介します。
こちらは安藤忠雄が設計した客室。

安藤忠雄といえばコンクリートのイメージが強いですが、こちらは柔らかな木目と白を基調とした、どこか日本を感じさせる穏やかな空間。イメージとは異なる仕上がりが意外で、印象に残りました。
続いて、隈研吾が設計した客室。

こちらも木をふんだんに使った、隈研吾らしいデザインです。鎧張りの木の隙間からこぼれる間接照明の光が美しく、素材の重なりと光の演出が印象的でした。
ピーター・ズントーが設計した赤い客室も見てみたかったのですが、今回は残念ながら見学することができませんでした。
ホテル内のレストランもミシュラン二つ星を獲得しており、ぜひ訪れてみたかったのですが、予算と時間の都合で今回は断念。系列店の「7132 Glenner」で夕食をいただきました。
スイスらしい木調のインテリアに包まれた落ち着いた雰囲気の中、お料理もワインもおいしく、素敵な時間を過ごすことができました。

スイスの滞在では、自然と建築が調和する風景から、素材や光の使い方にこだわった個性的な建築、そして実際に泊まって体感する空間まで、さまざまな発見がありました。
今回で、数回にわたってお届けしてきたミラノデザインウィークの視察レポートは、ひとまず一区切りとなります。
ミラノの最新デザインから、スイスの街並みや建築、ホテルでの体験まで、今回の旅ではたくさんの刺激や発見がありました。
素材の組み合わせや照明の演出、空間の見せ方など、実際に見て体感したことを、これからのお客様へのインテリア提案にも活かしていきたいと思います。
これからのブログでも、日々の仕事や視察を通して見つけた素敵なデザインや空間をご紹介していきたいと思います。